海外メディアからも注目を集めている女性長距離トラックドライバー(トラガール)の佐々木梨乃(ささきりの)さんを取材させていただきました。梨乃さんは家業でもある一般貨物自動車運送業を営む「有限会社佐々木物流」のトラックドライバーとして、今も全国を飛び回っています。
元々は着付け師、日本舞踊の講師として働いていた梨乃さん。「仕事が一変するとは思いもしなかった」と言います。トラック運転手への転身の背景には、家族を思う深い愛情がありました。
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子どもの頃から好きだった
着付けと日本舞踊の仕事。
私は生まれも育ちも四万十町。両親も兄も長距離のトラックドライバーで、私だけが違う世界にいました。
日本の伝統的な文化が好きで、6歳のときに「舞踊を習いたい」と祖母に言ったらしく、小学生の頃から日本舞踊と着付けを始めました。名取(日本舞踊のライセンス制度で資格を取ること)して、高校卒業後には独立して日本舞踊の講師や着付け教室をしていました。
念願の夢が叶って着付け師、日本舞踊の講師としてやっと切り開けたなと思った矢先に、父が余命宣告をされるほどの大病に。胃ガンで末期だと言われました。
「今夜が峠です」とお医者さんから言われたとき、「輝く父をまだ見ていたい」という思いが強くて、「父の生きる気力を支えたい」と転職を決意しました。迷いは一切なかったです。
父の猛反対を押し切って
トラック運転手に。
私がトラックに乗ると父に伝えると、「絶対に乗らさん!」と猛反対。それでも押し切りました。着物を着て毎日過ごしていたのが、いきなり大型トラックに作業着。もの凄いギャップに、最初は戸惑いました(笑)
父が反対した理由は、運送業はいつ事故に遭うかもわからないし、体力を使うキツい仕事が多いので、どうしてもさせたくなかったみたいです(笑) ちなみに父の病気は、5年再発しなければ大丈夫だということでしたが、5年以上経った今は元気にしてます(笑)
21歳になって大型免許を取得。トラック運転手の助手として働きながら着付けの仕事もしていました。
トラック運転手の仕事はいつでも帰ってこれる仕事ではありません。高知で着付け教室をしていたので両立が難しくなり、1年経たずにトラック運転手として専念するようになりました。
トラック運転手は
体力と根気のいる仕事。
今の仕事になってから体力を最大限使うようになりました(笑) 助手として2人でやっていた仕事を1人でやることになって、この仕事は大変だなと改めて実感しました。
すべての荷物は1つずつ手積み手下ろし。重さも様々。今じゃ平気で20kgの肥料もブンブン荷下ろししています(笑) 長時間の運転がほとんどなので常に腰痛(笑) 全体にまとめたら、この仕事は「忍耐」ですね(笑) でも、その中にも楽しさがあるから続けられるって感じです。
常に全国を飛び回っているので、各地の美味しいものを食べれることが今の仕事の楽しみです。友達も増えて、人との交流も楽しい。積み下し先に行ったときに担当してくれるリフトマン(荷下しや積み込み作業をする人)やお客さんに「またおいでよ」「ありがとう」と言われるのが何より嬉しいです。
まだまだ学ぶことの多い運送業。
今年で転職して5年目になります。最初はまったく体力なかったですけど、今は男性と同等の仕事量をこなせています。振り返ると「体力ついたなぁ」と思います(笑)
何も分からないまま入ってきちゃったので常に勉強。いまだに勉強です。積み方も物によって変わってくるので、奥が深いです。
従業員の気持ちを考えられる経営者になりたいという思いが大きくて、体力の続く限りトラック運転手を続けていきたいです。もう65歳になる父もトラックに乗っていますが、そこまではやりたくないですけどね(笑)
社員10人ほどの小さな会社なので、アットホームで従業員が働きやすい会社を目指しています。帰ってきたら一緒にご飯を食べたり、休みが一緒になったら遊びに行ったり。
いつもは1人で飛び回っている社員達。だからこそ一緒過ごす時間を大切にしています。
憧れの海外トラックドライバーを目指して。
ドライバーになった当初から、海外の女性トラックドライバーに憧れているんです。ファッションやプロポーション含めて女性として魅力的。その日本版を目指しています。
各メディアで注目してもらっている分、イヤなことを言われたりもします。出る杭は打たれる。だから、出過ぎた杭になれるよう頑張ってます(笑)
これからも自分のスタイルは貫き通したい。その代わり、仕事をしっかり取り組むことを大切にしています。
今もっともチャレンジしたいのは、作業着ブランドを立ち上げること。
男性向けの作業着や安全靴がメインで、私のほしい女性向けの商品が少ないんです。ただ時間が足りない(笑) なかなか行動に移せてなくて。今の課題です。
若い今だからできることを、全力で。
18歳から20歳までキャンギャル(イベントのキャンペーンガール)の仕事もしていました。おかげで人前で感じる恥ずかしさもなくなり、堂々とできるようになりました。度胸がつきましたね(笑)
自分で言うのもなんですけど、注目されるんです。何の気なしに始めたツイッターやインスタグラムもいつの間にか3万フォロワー超えちゃって。どこに行っても声をかけられるんです。
目立ちたくてやってるわけじゃないんですけど、父から「今は注目されてるけんど、歳がいったらそうはいかんぞ」言われて。なるほどなと思って、若いうちに沢山経験しておこうと思ってチャレンジしてますね。自分が楽しいと思うことは、どんなことでもとりあえずやってみる。やってみてダメだったら、キッパリやめる。まずは動いてみることを大切にしています。
編集後記
小柄な可愛らしい女性、というのが最初の印象でした。大型トラックに乗って20kgを超える物を積み下しする姿は想像もできませんでした。口には出さないけれども男性には分からない、女性ならではの苦労も多いのではないかと思います。※トラックドライバーに占める女性比率はわずか2.4%(約2万人)
今のトラック運転手という仕事にも全力で向き合って、自分ならではの楽しみを見出していく姿はとても素敵です。今の仕事に付随してやりたいことも沢山あるようです。どんな道を切り開いていくのでしょうか。これからも目が離せません。