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アトリエ四万十 三浦 郁生|フランスの食文化を、地元(窪川)の食材で紡いでいきたい

フランス・ボルドーの焼菓子「カヌレ」やフランス菓子のテイクアウト店「アトリエ四万十」。このお店を運営するのは、フランスのレストランでシェフ経験の後、地元の四万十町に帰省しお店を開業した三浦郁生さん。目玉商品は、四万十特産の米粉と栗焼酎(ダバダ火振り)で仕上げた「四万十カヌレ」です。パティシエとしてお店を開くまでの経緯や今後の展開について伺いました。
 

将来の目標は
自分の店を持つこと

生まれは高知市内。小学校から高校までは上町で育ちました。もともと食に関心があり、将来的には自分の店を持ちたいと考えていました。    
 
高校卒業後は、大阪の辻調理師専門学校に通いました。在学中に10ヶ月ほどフランスに研修に行って、そこで東京のレストランと縁があり、卒業後はカジュアルフレンチのお店で5年ほど働きました。
 
200人くらい入る大きいお店だったのですが、大きいレストランよりは、オーナーレストランで30人のキャパでシェフ1人と小僧(盛り付けなどを担当する雑用係)でやっているようなお店に行きたくて。
 
ただ、そういったお店は空きがあまりないんです。来年なら1人辞めるから、というお店はありましたが、「1年間も何しよう?」と考えていて。
バイトと並行しながら、いろんなお店をまわってました。
 
 
 

順風満帆ではなかった
下積み時代

働く中で、一番最初に入ったレストランでの経験が大きかったです。それまで働いたことがなく、そこしか知らなかったので。
昔ながらの店で、”手が出る”ところでした。今ではそんなことしたらパワハラで捕まりますけどね(笑)
一つ例をあげると、一番下なので朝出勤して下っ端の仕事をして、上司が来るのを待っていたんです。
上司が朝来たら、僕のやった仕事を見るなりゴミ箱に捨てて、「こんなん使えねぇ!もういいよ、お前帰れ!」って、それが毎日続いてました。
もちろん帰らず、食らいついてました。
 
そこで鍛えられたのが大きいです。側から見たらイジメですけどね。
何年か経った頃に、その上司に「お前は辞めなかったよな」って言われて。
その上司は、仕事のできる人間と一緒に仕事がしたかったらしく、僕みたいな「何も知らない子と仕事をしたくない」と当時のシェフに言ったら、「辞めさせることはできないから、彼を辞めさせるようにして。そしたら新しい子を採用するよ」と言われて、一生懸命辞めさそうとしていたらしいのですが、僕が結局辞めなかったので、「困っていた」と言ってました(笑)
今では、仕事の相談にも乗ってくれるような大恩人です。
 

フランスに渡り、
星付きレストランへ

希望のお店を探していた頃、専門学校のフランス研修で仲の良かったフランス人、ニコラから連絡がありました。
彼はボルドーのレストランで副料理長をやっていたんです。
 
当時、1つ星から2つ星レストランに昇格する頃で、シャトー・コルディアン・バージュ(Château Cordeillan-bages)という田舎の方のポイヤックというところにあるお店でした。
 
「オーナーがシャトー(ワイン農園)を3つ持っている。そこに良かったら来ないか?」と言われたので、ちょうど良いかなと思ってフランスへ行くことを決めました。その頃25歳くらいでした。
 
 
 

コックからパティシエに

長くいるつもりはなかったのですが、何の問題もなく1年働きました。
その後、同じ系列店のレストランに移ります。
 
移った先のレストランのシェフが、スイスのホテルに引き抜かれて。新しいシェフにニコラが就任してきたので、それから正式に雇ってもらうことになりました。
 
それまで労働許可ももらっておらず、丁稚奉公みたいな感じで、給料はなく、飯と住むところはある状態でした。
そのレストランでパティシエがいなくなったときに、ニコラが「お前、菓子作れるか?」と聞くから、「作れるよ」と応えたら「じゃあ、お前パティシエのシェフやってくれ」と言われて。
 
そこから3年、パティシエをやることになり、その頃にカヌレを焼いていました。
カヌレはボルドーのお菓子なんです。
 
基本的にボルドーのレストランやカフェは、コーヒーのお供にはカヌレが付きます。
それだけボルドーではポピュラーなお菓子ですね。
 
 
 
 

食材を無駄にしない
徹底して使い切る

ボルドーの店を退職する頃、日本人の先輩でパリでお店を営んでいる青木さんという方がいて。そこに「人が欲しい」という話を聞きつけて、働くことになりました。
 
30人ほどのキャパで、シェフ1人でやっているお店でした。なかなかお客さんが入るところで、お昼でも50人は入っていました。
 
青木さんの店では、食材を無駄にしない点で、すごく勉強になりました。
働いていた3つ星レストランを含め、ほぼ9割のレストランは食材を無駄にするんです。
 
青木さんのレストランは、食材を捨てたことが一度もありませんでした。働いた3年間の間、一度もです。
腐ったからって、捨てた記憶がないんです。すごいってレベルじゃないですね。徹底していました。
 
例えば、アラカルト(一品料理)のお魚で売れないとき、ヌメりが出てきたら、すべて粗塩に漬けちゃうんです。
魚を捌いたときの骨についている身や、大きい魚なら頰の肉も全部塩に入れちゃうんです。何キロもたまってきたら、塩抜きして、ブランダード(タラとジャガイモを混ぜ合わせ)というフランス料理にします。
 

フランスの食文化を携え、
地元に里帰り

コックの仕事は、どうしても裏方の仕事なんです。お客さんの前に出ることはまず無い。
対面で、お客さんの反応が分かるようなお店がすごく好きだったんです。
 
僕も10年近くフランスにいたので、ずっといるわけにもいかないし、帰省して何かしらの商売をしたいという想いがありました。
 
今の「アトリエ四万十」の場所は、親戚の叔母が住んでいましたが、生前「ここを使いなさいよ」と言われていたので。それもあって2011年3月に帰省しました。
 
 

地元の食材を使った
カヌレ専門店

何をしようと思った時に、自分にネームバリューもなく、客を呼べる力もない。
「じゃあ、どうしようか」と思った時に、焼き菓子や惣菜を考えました。
 
焼き菓子はその日に売り切らなくても大丈夫ですし、惣菜でもテリーヌやパテは保存食なので、一日で売り切る必要はない。というのもあって、カヌレ専門店「アトリエ四万十」を始めました。
 
カヌレを作るにあたって、フランスでは、ラム酒とバニラを使うのが王道ですが、地元の素材を使いたいと考え出しました。
代替え案として、地元の「仁井田米」と「栗焼酎ダバダ火振り」を採用しました。
 
米粉を使うので、普通のカヌレより中の「モチっとした食感」がより強いです。
通常はミツロウも使うのですが、「アトリエ四万十」では使っておらず、表面がちょっと違ったカリッと感が出ます。
 
あと、ミツロウは油と一緒なので、たくさん食べると胃もたれするんです。
「アトリエ四万十」のカヌレは、たくさん食べても胃もたれしないことが特徴です。
 
 
 

誰もやらなくなった
当たり前の料理を

これからは飲食店もやりたいと考えています。高級レストランではなくて、フランスの当たり前の食事。フランス料理のコックさんは、ビジネスとしてやっているレストランが多いので、最先端の料理や技法を追い求めている料理ばかりなんです。
 
そうではなくて、料理辞典に載っているような当たり前の料理。当たり前すぎて世に出てこなくなった料理を提供していきたい。
 
例えば、生姜と豚と米は四万十町にあるので生姜焼き定食屋さんとか。
基本地元の食材以外を使うことは考えないです。
 
もちろん、他国や県外の素材を使うのは良いのですが、良さが出ません。
地元の食材を使って、食文化を紡いでいきたいです。
  

インタビュー後記

10年ほど、フランスで暮らす中で、フランスで全ての星付きレストランで働かれた経験から、やはりお客さんと対面で反応を見れる小さなお店がよかったと言います。
星付きレストランでの、面白い経験談をお話しいただいたので、ご紹介します。
  
星付きレストランは、人数が多いので、コックさんだけでも30人くらい働いています。
小さいお店の方が、料理作り以外の仕事もやらないといけないので学ぶことが多いです。
 
3星レストランに行くと朝から晩まで、サラダをちぎって終わり。なんてこともありますからね(笑)
一番嫌だったのは、真冬のアルザスですね。雪降る中、外でガウンを羽織ってサラダちぎり(笑)
 
今となっては笑い話ですが、経験してみないと実感を得られませんし、学ぶことも多いのではないでしょうか。 
 
「アトリエ四万十」では、納屋だった場所を改装しイートインできる空間もあります。
また県外からのお客さんが多く、意外と「カヌレ自体を初めて食べた」という声を多くいただくそうです。
 
まだカヌレを食べたことのない方は、是非一度来店してみてはいかがでしょうか。
柔らかい物腰の三浦さんが、暖かく迎えてくれます。